愛をください。その3「心の矛盾」

「愛をください」
●遠野李理香(管野美穂)
●長沢基次郎(江口洋介)
●葛井昴(陣内孝則)
●葛井昭子[キョンちゃんのママ]
●木場源太(杉本哲太)
●木場静江[カズ君のママ]
●月蜜中也(伊藤英明)
●新藤未明(原沙知絵)
●柿崎保[音楽プロデューサ]




白濁の水面の中から私の手がすっと伸び、無人島のように丸く飛び出た膝のてっぺんを抱えてみる。
お風呂の窓は天井に近く、私からは遠い。そこからふんわりと光が射し込んでくる。
白い光と黒い闇の真ん中の、青白い光が湯気を揺らしてこの個室を満たしている。
どっちなんだろう?。私が葛井の元で一夜を過ごしたという事実を忘れてしまったら、
このぼんやりとした空気の中では、今が夕方なのか、朝なのか、どっちかは分からないだろう。
私が浸かっている白濁の湯は汚れた体を隠すのにぴったりだとも思った。
彼の唇と体を愛撫した私のこの唇も、すっとこの湯の中に浸し、ブクブクと息を漏らした。
水面に達して膨らんだ泡の表面が、一瞬膜のように形づくり、そして緊張が切れ消えていく。
息が苦しくなったから、一気に立ち上がった。
バスタオルに手を伸ばし、持ち上げるとその下に、バスローブと自分の衣服の上にある青空の写真が見えた。
体についた水滴を素早く拭き取って、その写真を口にくわえ、服に着替えた。
拭き終わったバスタオルは、投げ出されて、その重さで床に落ちた。
私はそんな事にも気付かず、バスルームを出ていく。
私が、この前、涙を流した時、。膝から崩れて金網にもたれかかって雨に打たれて泣き崩れた時、私に降り注ぐ雨を温かいと思ったのには、訳がある。
そう思わないと救われない と思い、瞬時に取った私の防衛本能からくる行動だったのである。
基次郎、あなたはそんな防衛手段をいろいろ教えてくれる。
空の写真もそう、木のたもとに立って上を見上げるという行為もそう。私は貴方から直接に、また非直接的に、心得というか溢れだした大水をせき止めるダムのようななにかを築いてくれた。
でも、そんな手段も次第に結果を出せなくなってきている。
世の中を恨み、他人の幸せを妬み、復讐心を燃やしている私。
部屋をそっとでて行くとき、壁に掛けてあった、大きな目がいつも書かれたタペストリが目に入った。
不信に満ちた目、攻撃的な目、恨みに満ちた目、悲しみの目・・鏡のように私の瞳の奥を映し出す。あーやだやだ。まだ湿った髪をかき乱す。
そして部屋から出ていく。

仕事をいつものようにこなし、またいつものように嫌なこともあったりして、うんざりもした。

家に帰ると、月蜜、あのうるさいギター野郎が来た。
彼の無理矢理の誘いに仕方なくのって、行く当てもなく外に出た。
「また暗い顔をしているぅ。よせよ、そんな湿気た顔。」
奴は私の顔を下から覗き込んでそう言った。私がそれを避けて斜め後ろを見ると、着いてくるように腰を伸ばして、また きしょい笑顔を私に向けてきた。
「こらっ、また世の中に復讐だとか考えてたんだろうっ」と続けて言われた。
ご名答・・だんだん彼の正解率が上がっているような気がする。
「今、考えていたことは、あんたの汚い笑顔を殴ること。」
つんとした素振りでまた彼の視線を振り切る。
奴は両こぶしを自分の顔の前に出して
「なら、ほら殴って見ろよ。」と言い、右、左、はい右、右、ひだりーと空パンチを私に向ける。
そして、私の右腕をつかむと「よし、ボクシング見に行こう」と言いだした。
前のめりにった私が「ちょっと、勝手に決めないでよ」と文句を言いながらも、私は結構乗り気だった。
でも、奴の誘い文句に素直に従うのは しゃくだったので、ぐいっと後ろに引っ張ってみた。
「おいおい、じゃあ何処に行きたいんだよ。」と彼は言うのだが、おいおい私はおまえに、何処が行きたいとは申し出てないですけどね。
「じゃあ、行くわよぉー」と仕方なく続ける。
カサカサとサンダルとアスファルトが擦れる音が、心地よく感じた。
閉まりかけの商店街を抜けて、脇道に入り、屋台の臭いに後ろ髪を引かれつつ、高架下を抜ける。
パスパスとリズム良くグラブがぶつかる音が聞こえてきた。
入り口から見に入ろうとする私を、ちがう、こっちこっちと手で誘い、裏に回って行った。
心なしか嬉しくて、どうしてわざわざ裏に行くの?とは聞かなかった。
「あー、見えない見えないぃー」ジム裏にある窓は高く、飛んで、見て、着地を繰り返した。
練習生同士のスパークリングであったけど、見え隠れする間の状況の変化の早さは、さすがで、その合間を埋めるためにも、我を忘れて繰り返した。
いくら夢中でもしばらくすると、疲れてきて膝の頭まで手を伸ばし、下を見て背中で息をしていた。
「ははっ、大丈夫か?」
笑い半分、心配半分の彼に、いやいや奴に少し信頼を置けるような気がする。
「そんなに見たいんだったら、おんぶでもしてやろうか?」との提案に、「いいわよ、はふぅ、ちょうどスパーリングも終わったみたいだし、」息を切らせながら答えた。
続けて「じゃあ、そろそろ、帰るか?」と言ってくれたので、声にならない返事をして、帰路についた。
基次郎。
あなたが昔に言った言葉を思い出しました。
「ふたつの相反する感情が生まれ出て矛盾する心持ちの時は、決して自分自身に不信感をつのらせないでほしい。
今、君が戦っている証拠だ。人間は完全ではない、でも不完全でもないんだ。」

ポケットに入った青空の写真をチラリと見た。そして、元の通りしまった。
基次郎から、返事が来ない理由が少し分かったような気がした。
でも、まだ、信頼を置ける友人である基次郎からの手紙を欲している気持ちでいっぱいで、すぐに忘れてしまった。




▲「愛をください」4回目がメイン。
ドラマが最近描こうとしている、ロンリーギターマン月蜜君との交流を描いてみました。
この二人の散歩のあとに、「もう棄てるなっ」の叫びのシーンが続きます。



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