アフリカの夜 その1「アフリカの夜」

●杉立八重子(鈴木京香)
●木村礼太郎(佐藤浩市)
●相沢有香(松雪泰子)
●木村 緑(ともさかりえ)
●山室(丸山)みづほ(室井 滋)
●丸山 良吉[総菜屋の亭主]


一人洗濯物を夕方からたたんでいると、空はゆっくりとその明るさを失い、もう建物の中では目の前にある文字も読めないくらい暗くなっている。
少し開けてあった窓から入った湿った空気がふっとカーテンを揺らしている。
お昼の天気予報では今日の夕方には降り出すとの事だったので、その予想は、今現実になる。
ざーと大きな音がして、そのいくつかが、バツバツと窓ガラスに当たるようになったので、私は窓を閉めた。
それでも、部屋の中はもう湿った空気が充満していて、あの時の記憶が思い出された。この暗い、そして湿った空気の中で、礼太郎さんと踊ったダンスの記憶が。
私は雨の夜が好きだ。その一粒一粒に闇からしぼりだされた光の生(いのち)が絡みつき、鬱陶しいほどにまとわりついてきて、生(じぶん)の存在を感じさせてくれるような気がするから。
「ただいまぁー」
玄関の方で、子供の声がする。ドタバタと足音が続き、洗面台の方から水音が聞こえ、そして、また「ママ、ただいまぁー」とまた大きな声で叫んでいるのが聞こえる。
私は遠くて近い、五年という過去の記憶の縁から現実に舞い戻り、たたみ途中の洗濯物を置いて、その声の方へと向かった。
ダイニングのイスに腰掛け、私を待つその子。テレビの電源はすでにONになり、私の方を微笑み混じりで少し見て、またテレビのアニメに夢中になっている。
この子は礼太郎さんが私達に残した子で、私の子ではないけれど、本当のママの相沢さんの申し出でもあり、メゾンアフリカの全員で育てている。
相沢さんは、一度はこの子のためドラマ出演を諦めたりして、その世界から一歩身を引いていたけど、しばらくして「やっぱこれが私の道よね」と明るく、しかもより確実な自分を求めるようにそう言って、今はまだ頑張っている。
この5年間いろいろ浮き沈みがあったが、相沢さんが仕事から帰ってくるまでの時間、彼を預かる習慣は変わりはしなかった。
ダイニングに来て、この子の帰宅という現実を目の当たりにすると、ますます私の頭の中は今でいっぱいなり、そしてお腹がくぅぅと音をたてて、記憶や思い出では生きてけない事を実感させられてしまった。
昼過ぎから作っていた(私はここの管理人をまだ引き受けていて、働くのは週に四日だけなのだ)シチューに再度火を通すためガスをつけた。
洗濯物をたたむ前にも火がついていたため、今もほんのり暖かさを残しているようで、さっき火をつけたのに、フツフツと音が聞こえてきた。
その音とともに空気に解けだした香りに彼は反応し、イスから降りると自分の食器などを用意し始めた。彼からその皿を受け取りシチューを注いで、自分の分も注いで、火を止めた。
「いただきます。」と二人で言った後、一口スプーンを運んだ彼は「ママ、すっごくおいしいよ」と、口元から少し垂らしながら言う。
食事の間はいつも、今日あった事だとか、他にもいろいろと、普通の母親と子供が話す会話をする。
こんな日常に、ふと、この子は礼太郎さんから受け継がれた生命(いのち)なんだと歓心してしまう。
礼太郎さんは、最後に自分がやっと得た何かを託して、というとこの子はまるで一義的に生を受けたようでそう思う事がこの子に対して申し訳ないけれど、死んでいってしまったのだと思った。
礼太郎さんは第三者的に見れば完璧だった。正論を確実にまかり通せる男(ひと)。でも適当に真面目で、ひどく不真面目な一面も持っていた。
前者に相沢さんはイライラし、後者に私は愛想をつかしてしまったはずだった。

ピンボーンと呼び鈴が鳴り、続いて「管理人さーん。あたしぃぃ」と相沢有香の声。
私はすぐに玄関に向かい、鍵を開ける。
「今日は結構早いでしょ。」と言って、靴を脱ぎ勝手に、でもそれはいつもの事で、部屋に上がり込んでいく。
「んーいい香り。うわぁーシチューおいしそう。」鍋の蓋を開けて、満足げな顔、彼女夜食は、手に持っている丸ちゃんとこのメンチコロッケと、このシチューになるようだ。
私が残りのシチューをタッパーに分けている間、彼女は子供とただいまのコミニケーションを取り、彼の皿に残っているグリーンピースの事を叱っている。
そこには、「今日は預かってもらってごめんね」といった雰囲気は全くなく、この子が私達共通の子という事を再認識する。ここまでは私の担当。これからは相沢の担当。そして手が空いた時に緑ちゃんの担当。というわけだ。また時々丸ちゃんのお母さんの教えみたいなものも自然に口にだしたりしているので、彼女も彼を育てている。

「じぁね。また明日。おやすみなさい。」続いて子供も私に「おやすみなさい」と言って、私の部屋を後にする。

夕食での会話では、彼がしゃべりながら食事をするのに対し、私は食べるのを一端止め耳を傾けるので、いつも彼の方が食べるのが早くなる。
テーブルには、彼の小さな皿と、まだ半分は残っている私の皿が残っていた。
冷えたシチューもなかなかいけた。

そのシチューも食べ終わって皿を洗っていると、キッチンの小窓から聞こえる雨音にまた気が付く。シンクの水音とは別に不定期に、でも全体からすればしっかりリズムみたいなものを奏でている雨音は、ダンスにぴったりのような気が今更ながらする。
あの時の強引だけど、優しく、最後礼太郎さんが悟った事をすでにその時心得ているかのように、私を二人だけの暗闇のダンスパーティーに誘った時の記憶がまた蘇ってくる。

洗い物を終えると、また隣の部屋に戻ってみて、両腕を胸の前にだしてくるりとゆっくり一回転してみた。
気分はすごく良かった。
そして続けてくるり、くるりと狭い部屋をいっぱいに使い彼とダンスを踊った。


    とても気分がいいから
        とても心が弾むから
             とてもあなたが好きだから
    苦しいことも 悲しいことも たくさんあって「人生」だけど

               いまひとときは忘れて踊ろう

     せっかく出逢えたのだから
           生きることは食べること
               生き抜くためにはエネルギーが要る
                     つらいときほど要るんだよ
 
                だからダンスを踊ろう

         私のお腹をいっぱいにしてくれるあなたと・・


私は決して過去にどっぷり浸っている気分はしなかった。
それよりむしろ今の生命感(いのち)が活き活きした調子になった。
彼が悟ったその事を、また深く再認識する。

私は雨の夜が好き。




▲ドラマ「アフリカの夜」という作品は一般的に評価がされていないような気がして、ぜひこの作品は自分が感じた事を書かなくてはと思った作品です。
もう半年以上(2000年4月現在)前の事なので、記憶がおぼろげだったのですが、一番印象的なダンスのシーンを軸に、最終回後約5年後のメゾンアフリカの風景を描きました。
小説中に挿入されてます詩は、ウェブ友のきょろりんさんのものです。
きょろりんさんに頼んで(ほんの少し変更して)使わせてもらいました。(彼女が持ち合わせている洞察力や感性には敬意を感じます。)きょろりんさんのページにジャンプ(ひとりBBSのドラマエッセイのページにあります。2000年4月現在)

小説全体に雨のあのしっとり感があると感じてもらえると幸いです。(内容も感じてほしいですが^^)



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