アナザヘブン その1「皆月悟郎と幕田ユウジの会話」

●皆月悟郎(大沢たかお)
●幕田ユウジ(加藤晴彦)
●大石紀子(本上まなみ)
●綿引亜希美(室井滋)
●黒川忠夫[美術商]
●矢野祥子[失踪者第一号]
●稲富圭一[祥子の婚約者]
●吉村香織[失踪者二号]
●木内ルミ[天文サークルでの友人]
●須賀静江[同じく]
●篠原加奈子(新山千春)
●坂木警部
●両角刑事

●早瀬マナブ(江口洋介)
●飛鷹健一郎(原田芳雄)
●大庭朝子[早瀬の恋人]
●木村敦(柏原崇)
●柏木千鶴[失踪者兼殺人者]
●笹本美奈(松雪泰子)


「悟郎さん・・屋根がへこんだ・・・買ったばかりなのに・・」
幕田ユウジは、運転しながら悟郎の方も向かずに不満顔で言う。
「悪かったっ」
素直に平謝りの皆月悟郎。ユウジの方はまだ憂鬱な心持ちのようで、少し涙目。
「なんか俺がおまえにやってあげる事ないかな?。」
一歩引いたその態度にユウジはやっと気が引かれた様子。チラッと見て唇を吸って舌で湿らしてから話を持ち出してみる。
「ルミっていいましたっけ、あの人かわいいですよね。」
「ルミ?」
「そうっ」と鼻歌を歌う直前といった御様子のユウジの返事。
悟郎は、車の窓にひじをついて、外を眺めながらつまらなそうにつぶれた声で言う。
カーテンを開いて見てしまった女同士のキスを思い出しながら。
「可能性ないね、諦めた方がいい」
ユウジはチラッと悟郎を見た後、どうして?と聞き、釈然としない顔を前方に戻す。
下顎は手のひらに付けて上顎のみを動かし、「どうしてものだっ」の「ど」をひどく延ばして答える。
「じゃあ・・その横にいた茶髪の子なんかは?」
じゃあと言った時点では妥協案を探るように口をつぐみ、名案を思いついたようで、顔はにこやかになりそれを口にする。
「おまえ本当に女運ねぇみたいだなっ」
悟郎の態度は相変わらずで、ユウジの方も、その事に関しては図星のようで、悟郎とは逆の遠くを見る。悟郎は続けて無関心に言う。
「女見る目をやしなってないから、しゃあねぇけど・・・・」
遠くを見ていた視線は、眉をよせて、すっと前に、悟郎の肩に、そして、また前に戻り、ユウジは眉を八の字、頬をほんのすこし上げ、してやったりの顔をして、
「悟郎さんだって、この前の大石さん?、うまくいってないみたいじゃないですか?。」
と言い、続けて無表情な顔で、
「人の事とやかく言ってほしくないですね。」
と言ってやる。
「好きこのんで事件ばっか追いかけてりぁ・・う゛っ」
窓側にねじ曲がった体を戻そうとした途中で悟郎の体はのめり込み、シートベルトがその体を押し戻そうと踏ん張る。
「う゛っごぼぉっ、なんでいきなりとまるんだよぉ」
大きな目、大きな口で、悟郎はユウジに怒鳴る。
ユウジは冷静に、指で斜め上の赤信号を指さした。
「くそぉっ、唇切ったじゃねぇか・・」
親指で下唇にふれ、その平をうつむき眼で見て、あっマジ切れてるよといった渋い顔をする。またさっきの肘付き体勢に戻る。

青信号になってゆっくり車は発車し、順調に青信号が連なり始めるが、車の中の会話ははそれとは逆に速やかではなかった。

無言と、時折唾かなにかの音のみの状態。

「でぇ、好き好んで追っていた早瀬や飛鷹のくそ親父の何処が良かったの?。」
悟郎がやっと口を開くが、全く静止映像のように動的展開がない雰囲気は継続のまま。
「悟郎さんには、一生分かりませんよ。感性の相違がずいぶんありますから。
早瀬さん達と同じ刑事とは思いませんね。
まぁ悟郎さんは刑事失格直前ですけどね。」
ユウジは言葉上では嫌みを言うが、それをさっきのように顔には出さない。
「いちいちうるせぇんだよ、早瀬。早瀬って・・おまえ知ってるか早瀬、鼻クソ食ってんだぜ。」たるい口調で返す。

後ろの無線機器からバスゥッという音のみが二回位続く。

「・・はは。マジに信じてやんの。馬鹿じゃねえの」
悟郎は大笑いに、体をユウジの方に向き返して指まで指して言う。
「・・感性の相違だ。」
もうどうでもいいっていう感触を痛感したようで、ユウジはそう呟き、運転に集中する。

・・・静止映像的雰囲気。・・・

「あのさ・・」再び沈黙に耐えかねて悟郎が口を開く。
「なんですか・・」気はここにあらず、運転に集中。
「おまえ、脳味噌事件何処までしってんの」沈んだ目は遠く。
「なんですか、・・・その・・・」
ユウジの関心は再びここに戻ってくる。
「・・その・・結果ですか?、経過をですか?。」
「両方だよ。俺は途中からあんま知らねぇからさ。」
悟郎の視点は遠くから近くなり、記憶へと向けられる。早瀬との最後の会話。感傷なく、ただ映像としてのみ流れる記憶。
「・・ホントに一ヶ月間寝てたんですね・・」素直に出てしまった言葉は悟郎を少し苛立たせた。
「話そらすなよ。」
「あっはい。」
ユウジの方も、こちらは冷静を装いながらも、まだ整理つかない記憶と事実を思い出す。
「柏木千鶴が死体で殺害現場で見つかった事は知ってますよね」
「ああ、綿引に聞いてだいたいは・・それで終わんなかったんだろ。」
「ええ、それから木村敦を追いかけて、終いには朝子さんまで変になっちまうし・・」
涙目に近い、いや表情も制御できないような顔をユウジはする。それを察した悟郎はすかさず言葉を加える。
「朝子ってすけこま大庭朝子の事?。俺は笹本美奈の方がいいけどな。」
「何言ってるんですか・・、何も知らないくせに。」余裕のないユウジ。でも、悟郎が何も知らない事は事実で、この位置的に隣り合った二人の感情の差は甚だしい。
「全員、ナニカに食われちまったんだろ」
真剣な顔をしてそれを言った後に、ふと頭に浮かんだ言葉を言ってみました といった顔をする。
「どうして、しってんですか?。」ユウジ自身、その悟郎の表現がとても自分のまとまらない想いみたいなものにしっくりいったらしく、その感覚を悟郎が示し合わしたように述べる事を不思議に思って、おもわず、この言葉が出た。
「なんとなくな。俺本当は一ヶ月間寝てなかったのか?。
まぁ早瀬のやつも祥子とともに見つけてやるからさ・・・
あっそうだ。」
インター導引の看板を見て思い出したらしい。
「それより温泉行こっ、おまえの運転で、如月温泉っ。」
サラリとかわされたような居心地のユウジをさらにほったらかしにする発言。続けて、
「断ってもいいんだけど、犯罪マニアは続けられないだろうなぁ」
「どうして?」と因果関係がはっきりしないようで、そう素直に返す。
「どうしてって、俺、チクるもん。」にやけて言う。
ユウジの視線は上、下、斜めと落ち着かず行き来して「あんた、やっぱひどい人だ・・」とため息とともに漏らす。
悟郎の方は、そんなの構わずに、「温泉行こっおんせんっ行こぉっ」と嬉しそうに前の高速インターの看板を指さし笑いながら言う。
ユウジは渋い顔のまま、ため息を吐き、また運転に集中する。
車は如月温泉へと向かっていく。
ふたりの運命を引き連れながら・・。




▲第二話最後の方のふたりのやりとりを中心に書いてみました。
実際放送されたセリフを変えてありますが、ふたりのやりとりの感じや、ふたりの性格などの雰囲気はしっかりでたと思っています。
どうでしょう?。動きが限定される車の中でいかに会話に動きというか、それに伴ったものを付け加えるのに結構苦労したかも。





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